☆幸せの形☆

朝の九時・・・けたたましくも爽やかな携帯の目覚ましが
俺の眠気を吹き飛ばしてくれる。衣替えのついでに出した毛布が
ベッドの上で申し訳なさそうに小さくなっていた。
欠伸をしながら起き上がると、ぶるり！
部屋中に広がっていた冷え切った空気に筋肉が驚いたようでもあった。
湿ったタイヤとアスファルトの音で雨だとわかる。
「雨か・・・」呟く俺の横・・・小さな寝息を立てる君。
暖かな寝顔の君にそっとキスをする。

俺の周りでは新たな一日が始まっている。
俺は今終わったところだ。鳥のさえずりも忙しく動き回る人の足音も
一つ壁を隔てた関係の無いところでの事としか思えなかったりする。
とにかく今はこの小さなカードキーで俺を包み込んでくれる
暖かなベッドが待っている部屋に入ることが一番だ。
それにしても昨日のライブは大成功だった。
日本初の大規模ボランティアミュージックフェスタ・・・俺の夢だった。
終電ギリギリまで暴れ回り、その後は暴れる光の中で意識を泳がせた。
この夢を叶える為に登ってきた様な俺のアーティストとしての日々だ。
打ち上げの盛り上がりも今回のイベントが一番。
だから疲労感も今回のが一番だったりする。
ベッドに顔をうずめると意識まで沈んでいった。

・・・私は今日、定年退職を迎える。
集団就職で思わぬ大企業への入社が決まってから
延々４０年近く、大きな出世は無かったものの全力で捧げてきた。
妻には感謝しなくてはなるまい。退職金が入ったら旅行にでも行こう。
温泉にでもゆっくり入って、久しぶりに混浴でもいいな。
まだ告げてはいないけど、きっと告げよう。４０年お疲れ様。と。
息子は大学を出て就職難を思いっ切り感じてるようだが
前向きに今日もアルバイトに出かけた。
娘は銀行で受付をやっている。たまに覗きにいったりしている
父さんをどう思ってるかな・・・。何にしても健康で
ここまで育ってくれた事が私の誇りだ。
会社に捧げてきた私の人生が無駄でなかったと思える確たる証拠なんだ。
最後の出勤・・・そう思うと満員電車も何だか愛しい。

ポタポタと落ちる液体を見ながら、両手首をブラブラ。
「あら？今日も頑張ってるのね？お疲れ様。」
いつもこの時間に僕に会いに来てくれる看護婦の彼女。
僕は彼女の笑顔が大好き。
２５歳、前に聞いたら照れながらそう言ってたっけ。
普通に学校に通えてたら僕はもう小学４年生。
７歳の頃に体育の授業中に鼻血を出して倒れてからずっとこんな感じ。
でも僕には好きな子もいるし、友達もいる。これはこれで満足なんだ。
「友達沢山いて良いわね～。」
「パソコンやりすぎると目悪くなるから程々にね。」
そう言って僕の体温のチェックをする彼女。
そんな彼女を検温するのが絶対秘密の僕の小さな楽しみなの。
僕の病気？なんだか難しい病気なんだって。
治らないって結構前だけどママは僕に泣きながら教えてくれたよ。
でも、病気とも友達になるんだって言って驚かせたんだよ。僕の自慢。
学校に殆ど行けなかったけど幼稚園の頃の友達とは今でも仲良いよ。
だけどね。僕にはもっともっと沢山友達がいるんだ。
インターネットにＨＰを持っていて、病気の事を皆に教えてるんだよ。
そうしたらね。日本中に友達が出来ちゃったんだ。
同じ病気の人も沢山いてね。僕が勇気付けられちゃった。
こういう文章をＨＰに載せて今日も友達と遊ぶんだよ。
凄い楽しいんだ。こういうの。

幸せの形。どんな状況であれ幸せは形を変えて人に降る☆